小野衛の音楽信条

自由とは、他人の意志に強制されて自分の音楽を制約されることが無いと言う事である。
 しかしそれは自分の欲するままに何をしても良いということではない。
 芸の道を志す者は、権威におもねらず精神の独立性と自由が必要である。芸は人格が作っていくものであり、人におもねる心はその人をいやしくし、芸をいやしくする。
 但し、充分に留意すべきことは、これは高度なレベルの自由の意味であり、初心者のうちは先生から学ぶ、つまり模倣から始まる。この段階では、精神の自由といって何でも好きにして良いということではなく、ひたすら学ぶべきである。

箏曲の基本を学ぶには、古典を中心に稽古することが必要である。古典に根ざした上で新しい発展を求め、応用問題に取り組んでこそ、成果を上げることが出来る。

邦楽に偏らず幅広いジャンルの良い音楽に接することが大切である。そして、それに感動を覚えることがもっと大切である。

本当の音楽は人の心に訴え、人の心を揺り動かすものでなければならない。私たちが今大切にすべきは、心にしみるような音楽を作り演奏することである。作曲にしろ演奏にしろ、ジンと人の心に響くような音楽を作っていきたい。
 音楽の奥義というものは、人間から人間に伝わるものであり、いわば感得するものである。それもある時突然悟るものではなく、ジワジワと染み込んでくるように伝わって来るものなのである。

辛抱強く心・技・体の修行につとめること。